- 2019年9月14日
川端康成『眠れる美女』(1961)
三島由紀夫は、新潮文庫版に解説を寄せて、この作品を次のように評している。 『眠れる美女』は、形式的完成美を保ちつつ、熟れすぎた果実の腐臭に似た芳香を放つデカダンス文学の逸品である。デカダン気取りの大正文学など遠く及ばぬ真の頽廃がこの作品には横溢している。 この作品は、これ以上ない閉塞状態をしつ […]
三島由紀夫は、新潮文庫版に解説を寄せて、この作品を次のように評している。 『眠れる美女』は、形式的完成美を保ちつつ、熟れすぎた果実の腐臭に似た芳香を放つデカダンス文学の逸品である。デカダン気取りの大正文学など遠く及ばぬ真の頽廃がこの作品には横溢している。 この作品は、これ以上ない閉塞状態をしつ […]
チャイコフスキーのバレエ曲「花のワルツ」を舞台で踊る二人のバレリーナ、鈴子と星江。 二人は舞台の主役であり、振り付けも二人のために考えられたものだ。若い二人はまだ未熟で、互いを認め信頼しつつも、感情の起伏に流されて、舞台袖で言い争いになってしまう。 ここで二人の対照的な性格の違いがはっきりと描かれ […]
昭和30年前後の東京、上野。 上野駅前の旅館が舞台。 当時は駅前に呼び込みをしている旅館というのがたくさんあったらしい。当然だが、この時代は、旅先の宿を予約するというのがままならなかった。そこで重要になってくるのが番頭の役割で、同業者同士で客を斡旋する。同業者から客入りの連絡を受けた番頭は、駅ま […]
舞台は、東京鎌田、六郷川沿いにある産婦人科医院。戦災で焼けた医院を立て直して、新たに再出発した。 医師の八春は、甥の伍助に院長の座を継がせて病院経営を任せている。自分は後見人に退いた。が、なぜか院長の伍助よりもはるかに忙しい――― 終戦間もなくの下町風情を描いた風俗小説。作品の発表後、すぐに映画 […]
「ばか野郎。敵前だぞォ、伏せえ」 元陸軍中尉の岡崎悠一は、通りすがりの人々に誰彼と見境なく、突然、怒鳴りつけ、戦時中さながらの号令を発している。彼は、戦争がいまだに続いていると錯覚している。。。 この作品は、昭和25年(1950)、戦争の記憶もまだ生々しい頃に書かれている。負傷して帰還し、戦後、 […]
多甚古村――― 読み方は「たじんこむら」。裏手に山を控え、岸辺近くの南方のどこかの農村、ということまでしか分からない。 「国家危急の際」という言葉が作中、何度か出てくる。だが、人々の暮らしにそれほど逼迫した様子は見られない。おそらく時代は、盧溝橋事件後すぐの日中戦争時。当時は支那事変と呼ばれて、 […]
『追剥の話』 とある村の寄り合い所(共同作業場)。敗戦から2、3ヶ月が過ぎて追剥や強盗が増えてきたというので、各集落で集まって対策を練っている。「盗難対策提案緊急会議」と戦時さながらな大仰な名前が付けられている。 集まった人たちは部落会長の指名で一人ずつ所見を述べていく。話している本人たちはいた […]
「しかし、それはお止しになったらどうです。あなたが是非とも行くと仰有るなら僕は妨害しませんが、それとこれとは問題の性質がちがいます。こちらは岩国の町だけではない、福岡にも、尾道という町にも、岡山にも神戸にも、岐阜にも寄ることになっています。時機を改めてお出かけになったらどうでしょう」 彼女は寧ろとり […]