• 2019年9月2日

川端康成 短編作品

『イタリアの歌』  1936年の初出。 川端の代表作『抒情歌』(1932)と同じく「死とそれを受け入れるもの」という主題を引き継いだ作品。だが、この作品の「死」の方がより唐突だ。死を受け入れる側は、突然のことに茫然とし、感情さえ失っているように見える。  不慮の火災事故を引き起こした戦争医学博士の鳥 […]

  • 2019年9月1日

川端康成『花のワルツ』(1937)

 チャイコフスキーのバレエ曲「花のワルツ」を舞台で踊る二人のバレリーナ、鈴子と星江。 二人は舞台の主役であり、振り付けも二人のために考えられたものだ。若い二人はまだ未熟で、互いを認め信頼しつつも、感情の起伏に流されて、舞台袖で言い争いになってしまう。 ここで二人の対照的な性格の違いがはっきりと描かれ […]

  • 2019年6月5日

井伏鱒二『駅前旅館』(1957)

 昭和30年前後の東京、上野。 上野駅前の旅館が舞台。  当時は駅前に呼び込みをしている旅館というのがたくさんあったらしい。当然だが、この時代は、旅先の宿を予約するというのがままならなかった。そこで重要になってくるのが番頭の役割で、同業者同士で客を斡旋する。同業者から客入りの連絡を受けた番頭は、駅ま […]

  • 2019年6月2日

井伏鱒二『本日休診』(1950)

 舞台は、東京鎌田、六郷川沿いにある産婦人科医院。戦災で焼けた医院を立て直して、新たに再出発した。 医師の八春は、甥の伍助に院長の座を継がせて病院経営を任せている。自分は後見人に退いた。が、なぜか院長の伍助よりもはるかに忙しい―――  終戦間もなくの下町風情を描いた風俗小説。作品の発表後、すぐに映画 […]

  • 2019年6月1日

井伏鱒二『遙拝隊長』(1950)

「ばか野郎。敵前だぞォ、伏せえ」  元陸軍中尉の岡崎悠一は、通りすがりの人々に誰彼と見境なく、突然、怒鳴りつけ、戦時中さながらの号令を発している。彼は、戦争がいまだに続いていると錯覚している。。。  この作品は、昭和25年(1950)、戦争の記憶もまだ生々しい頃に書かれている。負傷して帰還し、戦後、 […]

  • 2019年5月25日

井伏鱒二『多甚古村』(1939)

 多甚古村―――  読み方は「たじんこむら」。裏手に山を控え、岸辺近くの南方のどこかの農村、ということまでしか分からない。 「国家危急の際」という言葉が作中、何度か出てくる。だが、人々の暮らしにそれほど逼迫した様子は見られない。おそらく時代は、盧溝橋事件後すぐの日中戦争時。当時は支那事変と呼ばれて、 […]

  • 2019年5月23日

井伏鱒二 短編作品 その2

『追剥の話』  とある村の寄り合い所(共同作業場)。敗戦から2、3ヶ月が過ぎて追剥や強盗が増えてきたというので、各集落で集まって対策を練っている。「盗難対策提案緊急会議」と戦時さながらな大仰な名前が付けられている。  集まった人たちは部落会長の指名で一人ずつ所見を述べていく。話している本人たちはいた […]

  • 2019年5月22日

井伏鱒二『集金旅行』(1935)

「しかし、それはお止しになったらどうです。あなたが是非とも行くと仰有るなら僕は妨害しませんが、それとこれとは問題の性質がちがいます。こちらは岩国の町だけではない、福岡にも、尾道という町にも、岡山にも神戸にも、岐阜にも寄ることになっています。時機を改めてお出かけになったらどうでしょう」 彼女は寧ろとり […]

  • 2019年5月21日

井伏鱒二 短編作品

 飄々として、軽妙な人物像。淡々として、起伏のない情景描写。 何が面白いのか、と言われれば、説明に困るような作品。。。それが井伏鱒二の短編に感じることだ。 しかし、文章は平易かつ的確で、目の前にありありと情景が浮かんでくる。この描写の巧みさが、この作家の魅力なのだろう。  井伏鱒二は、早稲田文学部に […]

  • 2019年5月20日

井伏鱒二『屋根の上のサワン』(1929)

 わたしは足音を忍ばせながら傷ついたがんに近づいて、それを両手に拾いあげました。そこで、この一羽の渡り鳥の羽毛や体の温かみはわたしの両手に伝わり、この鳥の意外に重たい目方は、そのときのわたしの思い屈した心を慰めてくれました。わたしはどうしてもこの鳥を丈夫にしてやろうと決心して、それを両手に抱えて家へ […]