【科学思想史】心理学の始まり – 意識の科学的解明へ

意識の科学的探究へ

 心理学が近代科学として成立するのは19世紀中葉である。ドイツの生理学者ヴィルヘルム・ヴントが、心理学を経験科学として位置付け、形而上的な思考を排除して実験を重視したのが始まりとされている。その後、19世紀末には意識が科学の研究対象として心理学の中心を占めるようになる。

 19世紀末の心理学では、意識過程を精神状態や感情などいくつかの心理的要素に分け、それらが互いにどのように結びつき、関係するかを明らかにすることが目標とされた。その方法として、内観法が用いられた。
 内観法は、自己観察によって心理や感情の働きを見る方法であり、実験科学としての再現性を確保するために、統制された状況下で意識の観察が行われた。具体的には、例えば被験者に一定の条件下である思考課題が与えられ、その課題を考察する際に心に浮かんだ感情や精神状態をすべて口頭報告させるというものであった。だが、被験者によって語られる心理内容は、科学的方法としての客観性を保証するすべがなく、また、意識の中で被験者が自覚化される部分のみを記述するため、意識という現象の捉え方そのものに疑問が投げかけられていった。

行動主義心理学

 内観法は被験者の内観報告に基づくもので主観性が強く、20世紀初頭に登場した行動主義心理学によって次第に取って代わられるようになった。

 行動心理学は、心理過程という客観的な観察が不可能な存在を研究対象とするのではなく、心理過程の結果として現れた被験者の行動を観察した。
 行動心理学の基本的な考え方は、心理過程の研究は、行動の観察によってのみ可能であるというものだった。行動のみが観察対象とされたため、実証科学と性格はより強くなった。しかし、行動主義は心理学としてはある種倒錯していた。意識や心理の働きは、行動から間接的に推測されるのみだった。科学としての性格を維持するために、心理それ自体が意図的に研究の対象から外されたのである。

 そして、その後、心理学の中で意識研究は長らく破棄されてきた。この過程の中で、実験を中心とする心理学と、臨床に基づく精神分析とが分離し、互いに異なる発展を遂げていった。

脳科学の登場

 20世紀末になって脳の生理的機能の解明が急速に進展したことを受けて、脳の働きを通して意識を考えることが科学的に検証可能になってきた。

 1929年、ドイツの神経科医ベルガーによって頭皮上に置いた誘導電極から、脳の集合電位変動がはじめて記録された。これを機に、意識を研究する上で、言語記述に依存しない検証に耐えうる指標として、脳の電位変動、すなわち脳波を調べる方法が一般化された。
 脳波は、脳のニューロン集合の活動を反映し、樹状突起でのシナプス後電位より生じる。脳波は生きている限り停止することはなく、脳は常に様々な周波数からなる電気の振動を発生している。周波数帯域ごとに区分され名前が付けられており、それぞれ異なった生理学的な意義を有している。

 脳科学の観測技術と情報科学の発展により、認知心理学がおこり、再び意識が注目されるようになった。

 意識の実証研究を可能にしたのは、脳を直接観測できる先端設備の整備である。たとえば、脳の血流量を調べるPET(ポジトロン断層法)、磁場をかけて脳を調べるMRI(磁気共鳴画像法)、液体ヘリウムに浸した超電導量子干渉計(SQUID)を用いて脳の微小磁場を調べるMEG(脳磁場計測法)などが、ニューロンの働きなどを解明しつつある。

 脳の生理機能が明らかになるにつれ、意識とは脳の情報処理の一様式と捉えられるようになった。現代心理学において、意識とは、生物の生存、存続という志向性を持つ脳の情報処理の一様式であり、認識と行動を束ねる高次機能として定義されている。

参考図書

苧阪直行『意識とは何か』(1996)