文学逍遥 頽廃を描き続ける執拗さ – 川端康成『眠れる美女』 川端康成『眠れる美女』(1961) 三島由紀夫は、新潮文庫版に解説を寄せて、この作品を次のように評している。 『眠れる美女』は、形式的完成美を保ちつつ、熟れすぎた果実の腐臭に似た芳香を放つデカダンス文学の逸品である。デカダン気取りの大正文学... 2019.09.14 文学逍遥
文学逍遥 情景に溶け込む心情 – 川端康成 短編作品 『イタリアの歌』 1936年の初出。 川端の代表作『抒情歌』(1932)と同じく「死とそれを受け入れるもの」という主題を引き継いだ作品。だが、この作品の「死」の方がより唐突だ。死を受け入れる側は、突然のことに茫然とし、感情さえ失っているよう... 2019.09.02 文学逍遥
文学逍遥 恋と芸術の狭間 – 川端康成『花のワルツ』 川端康成『花のワルツ』(1937) チャイコフスキーのバレエ曲「花のワルツ」を舞台で踊る二人のバレリーナ、鈴子と星江。 二人は舞台の主役であり、振り付けも二人のために考えられたものだ。若い二人はまだ未熟で、互いを認め信頼しつつも、感情の起伏... 2019.09.01 文学逍遥
文学逍遥 上野の下町気質 – 井伏鱒二『駅前旅館』(1957) 昭和30年前後の東京、上野。 上野駅前の旅館が舞台。 当時は駅前に呼び込みをしている旅館というのがたくさんあったらしい。当然だが、この時代は、旅先の宿を予約するというのがままならなかった。そこで重要になってくるのが番頭の役割で、同業者同士で... 2019.06.05 文学逍遥
文学逍遥 敗戦後世相の哀愁とおかしみ – 井伏鱒二『本日休診』(1950) 舞台は、東京鎌田、六郷川沿いにある産婦人科医院。戦災で焼けた医院を立て直して、新たに再出発した。 医師の八春は、甥の伍助に院長の座を継がせて病院経営を任せている。自分は後見人に退いた。が、なぜか院長の伍助よりもはるかに忙しい――― 終戦間も... 2019.06.02 文学逍遥
文学逍遥 傷痍軍人の悲喜劇 – 井伏鱒二『遙拝隊長』(1950) 井伏鱒二『遙拝隊長』(1950)「ばか野郎。敵前だぞォ、伏せえ」 元陸軍中尉の岡崎悠一は、通りすがりの人々に誰彼と見境なく、突然、怒鳴りつけ、戦時中さながらの号令を発している。彼は、戦争がいまだに続いていると錯覚している。。。 この作品は、... 2019.06.01 文学逍遥
文学逍遥 田舎の巡査のドタバタ駐在日記 – 井伏鱒二『多甚古村』 井伏鱒二『多甚古村』(1939) 多甚古村――― 読み方は「たじんこむら」。裏手に山を控え、岸辺近くの南方のどこかの農村、ということまでしか分からない。 「国家危急の際」という言葉が作中、何度か出てくる。だが、人々の暮らしにそれほど逼迫した... 2019.05.25 文学逍遥
文学逍遥 敗戦後の人々の強かな姿 – 井伏鱒二 短編作品紹介 『追剥の話』 とある村の寄り合い所(共同作業場)。敗戦から2、3ヶ月が過ぎて追剥や強盗が増えてきたというので、各集落で集まって対策を練っている。「盗難対策提案緊急会議」と戦時さながらな大仰な名前が付けられている。 集まった人たちは部落会長の... 2019.05.23 文学逍遥
文学逍遥 勘定取立て珍道中記 – 井伏鱒二『集金旅行』 井伏鱒二『集金旅行』(1935)「しかし、それはお止しになったらどうです。あなたが是非とも行くと仰有るなら僕は妨害しませんが、それとこれとは問題の性質がちがいます。こちらは岩国の町だけではない、福岡にも、尾道という町にも、岡山にも神戸にも、... 2019.05.22 文学逍遥
文学逍遥 飄々とした表現の粋 – 井伏鱒二 初期短編作品の魅力 井伏鱒二 初期作品群の魅力 飄々として、軽妙な人物像。淡々として、起伏のない情景描写。 何が面白いのか、と言われれば、説明に困るような作品。。。それが井伏鱒二の短編に感じることだ。 しかし、文章は平易かつ的確で、目の前にありありと情景が浮か... 2019.05.21 文学逍遥