文学逍遥 太宰との確執 – 井伏鱒二『おんなごころ』(1949) 井伏鱒二『おんなごころ』(1949) 太宰が私に対して旧知の煩わしさを覚えていたことを私も知っていた。敗戦後の太宰は、外見だけのことであるが、まるきり人違いがしているようであった。私だけでなく、以前からの親しい友人たちにも、たいていの旧知の... 2020.01.25 文学逍遥
文学逍遥 虚構と近代刑法 – 川端康成『散りぬるを』 川端康成『散りぬるを』(1933) 初出は、1933(昭和8年)年。 5年前に殺された二人の若い女性――― ある作家が、二人への感傷的な思い出を交えながら、事件の訴訟記録をもとに、犯人の心理を推察していく、という話。残された記録から犯人の精... 2019.09.16 文学逍遥
文学逍遥 こころの不具 – 川端康成『片腕』 川端康成『片腕』(1964) ふと私には、この片腕とその母体の娘とは無限の遠さにあるかのように感じられた。この片腕は遠い母体のところまで、はたして帰りつけるのだろうか。私はこの片腕を遠い娘のところまで、はたして返しに行き着けるのだろうか。 ... 2019.09.15 文学逍遥
文学逍遥 頽廃を描き続ける執拗さ – 川端康成『眠れる美女』 川端康成『眠れる美女』(1961) 三島由紀夫は、新潮文庫版に解説を寄せて、この作品を次のように評している。 『眠れる美女』は、形式的完成美を保ちつつ、熟れすぎた果実の腐臭に似た芳香を放つデカダンス文学の逸品である。デカダン気取りの大正文学... 2019.09.14 文学逍遥
文学逍遥 情景に溶け込む心情 – 川端康成 短編作品 『イタリアの歌』 1936年の初出。 川端の代表作『抒情歌』(1932)と同じく「死とそれを受け入れるもの」という主題を引き継いだ作品。だが、この作品の「死」の方がより唐突だ。死を受け入れる側は、突然のことに茫然とし、感情さえ失っているよう... 2019.09.02 文学逍遥
文学逍遥 恋と芸術の狭間 – 川端康成『花のワルツ』 川端康成『花のワルツ』(1937) チャイコフスキーのバレエ曲「花のワルツ」を舞台で踊る二人のバレリーナ、鈴子と星江。 二人は舞台の主役であり、振り付けも二人のために考えられたものだ。若い二人はまだ未熟で、互いを認め信頼しつつも、感情の起伏... 2019.09.01 文学逍遥
文学逍遥 上野の下町気質 – 井伏鱒二『駅前旅館』(1957) 昭和30年前後の東京、上野。 上野駅前の旅館が舞台。 当時は駅前に呼び込みをしている旅館というのがたくさんあったらしい。当然だが、この時代は、旅先の宿を予約するというのがままならなかった。そこで重要になってくるのが番頭の役割で、同業者同士で... 2019.06.05 文学逍遥
文学逍遥 敗戦後世相の哀愁とおかしみ – 井伏鱒二『本日休診』(1950) 舞台は、東京鎌田、六郷川沿いにある産婦人科医院。戦災で焼けた医院を立て直して、新たに再出発した。 医師の八春は、甥の伍助に院長の座を継がせて病院経営を任せている。自分は後見人に退いた。が、なぜか院長の伍助よりもはるかに忙しい――― 終戦間も... 2019.06.02 文学逍遥
文学逍遥 傷痍軍人の悲喜劇 – 井伏鱒二『遙拝隊長』(1950) 井伏鱒二『遙拝隊長』(1950)「ばか野郎。敵前だぞォ、伏せえ」 元陸軍中尉の岡崎悠一は、通りすがりの人々に誰彼と見境なく、突然、怒鳴りつけ、戦時中さながらの号令を発している。彼は、戦争がいまだに続いていると錯覚している。。。 この作品は、... 2019.06.01 文学逍遥
文学逍遥 田舎の巡査のドタバタ駐在日記 – 井伏鱒二『多甚古村』 井伏鱒二『多甚古村』(1939) 多甚古村――― 読み方は「たじんこむら」。裏手に山を控え、岸辺近くの南方のどこかの農村、ということまでしか分からない。 「国家危急の際」という言葉が作中、何度か出てくる。だが、人々の暮らしにそれほど逼迫した... 2019.05.25 文学逍遥